● 安全安心のオアシス
金網フェンスのフレーミング効果
日本市民安全学会 副会長 富田 俊彦
通学路沿いの約250メートル続く金網フェンスが、壊されて穴が開いたまま放置されており、街の景観を損ねていたので、自ら防犯環境を整え「割れ窓理論」を実践しようと思い、毎日、見守り活動を終えてから、金網フェンスを修理しました。自転車に乗った主婦が「ありがとうございます。気になっていたので、良かったです」と言い、散歩中の夫婦が「向こうから綺麗になりましたね」、「ご苦労様です」などと声を掛け挨拶をしてくれる人が次第に増えてきました。
ある日、修理したばかりの金網フェンスが、再び壊されたので、虚しい気持ちで補修をしながら金網越しに見た野菜畑の向こうに立つ白い校舎の素晴らしい景色に感動して、「これだ」とひらめきました。
今まで破れた金網フェンスの嫌な光景ばかりを見ていた子ども達に、この美しいふるさ+との景色を心に刻んで母校を愛して欲しいと思い、早速、破れた金網の4箇所を選んで、子供目線の位置に合わせ「フォートフレーム」と「丸い木の枠」を取り付けて、そこから日々変化する故郷の野菜畑と母校の景色を覗いてもらうことにしました。
また、子ども達に防犯の目的を理解してもらうために、「金網が結ぶ安全地域の輪」・「安全は地域の宝まちぐるみ」・「登下校いつも見守る地域の目」の防犯標語を書いたプレートを金網に取り付け、さらに、季節や行事にあわせて、クリスマス、正月、ひな祭り、入学式などのアート作品を毎月作成して金網に掲示すると、子ども達は「金網アートだ」と喜んで「次は何作るの」と作品を楽しみにしています。地域の人達は「これはいいですね」、「素敵ですね」、「可愛い」、「毎回楽しみにしています」などと声を掛けて通ります。
行政や土地の管理者が機械的に金網フェンスを修理しても、人は感動せず、当たり前だと思うだけですが、そこに住んでいる地域のボランティアが、汗を流しながら一人で、破れた金網を引っ張って元に戻し、針金で補強する慣れない作業を、何日もかけて少しずつ修理する姿を見て、子ども達や地域の人々は、安全・安心の「意味と価値」に気付いて、共感の心を持って優しく受け止めてくれたのです。
その後も通行する人々が足を止め額縁を覗いて、ふるさとの美しい景色を眺め、標語を読み、アート作品に触れて会話が弾み、写真を撮って楽しんでおり、農家の人がフェンス脇にひまわりの種を蒔いてきれいな花を咲かせるなど地域の人達が金網フェンスに関心を持ってくれるようになりました。金網フェンスの修理は「割れ窓理論」を実践して街の環境を整えただけではなく、地域の人々が、破れた金網フェンスの嫌な思いや悪いイメージを払拭して、周りに人々が集い、笑顔で話が弾む楽しい場所に変わってきて、予期せぬ「フレーミング効果」がありました。