マジック道具

 最近、小中学生の不登校と自殺者が増加しており、子どもの心が病んで生きづらくなっているのではないかと心配です。

 見守り活動をしていると、いつも、始業時間に遅れて一人で登校して来る、名前も知らない中学校の女子生徒がいました。こちらから挨拶しても下を向いて返事をせず、元気がありません。

 通学路沿いに設置した金網アート作品(参照本欄「金網フェンスのフレーミング効果」)を女子生徒が見ているので、「今度、新しくするので見て下さいね」と言葉をかけるとうなずいて登校して行きました。その後ろ姿を見送りながら元気を出して欲しいと祈りました。
 子どもたちを励ますために、登校の妨げにならず短時間でできることはないかと考え、趣味のマジックをしてみることにしました。次の朝、女子生徒に、「ちょっと見て下さい」と声をかけ、「シルクのハンカチを振ると、ぬいぐるみのフナッシーに変化する」というオリジナルのマジックを披露するとビックリした顔になりました。

 「迷惑でなかったらまた見て下さいね」と言うとおじぎをして登校して行きました。
 この写真は、手作りのマジック道具ですが、その一つ一つに、子ども達との出会いや交流の思い出が詰まっている私の「こころの宝物」です。

 その後も、毎朝、会うたびに、異なる種類の簡単なマジックを10秒位で披露していると、次第に女子生徒から、「わー」、「おー」、「すごい」と言う「言葉が出るようになり笑顔」が見られるようになってきました。

 手品以外に、何か女子生徒のこころを励ます方法はないだろうかと考えました。上の図は、私自身が昔、元気づけられ書き留めて置いた著名人の名言や人生の教訓など「心に残る言葉」を封筒に入れて女子生徒に手渡してはどうだろうかと思いついたのです。私は中学校の教師に相談して、女子生徒の立場を十分に理解した上で、毎日、封筒に「心に残る言葉」を入れ手渡したのです。

心に残る言葉

 しばらくして、女子生徒と一緒に母親が登校時にやってきました。母親は「いつもありがとうございます。マジックまでして頂いて」とお礼を言い、女子生徒も母親の隣で微笑んでいました。その姿をみて、私は安堵しました。
 たった10秒間のマジックの交流でも、休まずに続けていると、徐々に優しさと思いやりの心が伝わり、安心と喜びに変わっていくのが分かります。封筒にいれた名言集も、この子のこころに何か変化を起こしたようです。

 孫のような子ども達が登校途中にホットする出会いの場になるように、私はこれからも子どもと繋がる通学路の『心のマジック』に精進したいと思います。

(日本市民安全学会 副会長 富田俊彦)