一般社団法人 日本セーフコミュニティ推進機構(JISC)
代表理事 白石 陽子

日本でセーフコミュニティが広がった背景には、まちづくりにおける「地域の協働」の必要性がこれまで以上に高まっていることがある。少子高齢化による人口の減少による地域経済の縮小、行政における福祉事業が占める割合の拡大、自然災害の頻発化・被害拡大など行政が置かれる環境はより厳しくなるなか、これまでのように行政のみで市民の安全・安心を保障することは難しく、地域の協働のなかでそれぞれの地域が直面する課題を解決することが求められるようになった。そこで、根拠に基づいた課題設定と取組みの評価、地域の協働に基づいた取組みへの関心が高まった。特に、2011年の東日本大震災をきっかけに、地域のつながりや市民の力(地域力)が再認識され、その地域力を向上するための方策としてセーフコミュニティへの関心が高まった。
新型コロナウイルス感染対策のため「できるだけ人と距離を置く」ことを求められるなかで大きな転換期を迎えた。
 コロナ禍では、人とのつながりにより地域で支えあう活動の多くは、停止・中止された。その際、SC活動のとりまとめ役となる行政の担当の進め方、また地域のコロナウイルス感染拡大の状況によって、SCは二極化し始めたのではないか、と感じる。
まず、一つは「ピンチをチャンスに変えたグループ」である。活動を計画通りに進められない時期だからこそ、これまでの活動を振り返えって改善したり、コロナ禍であってもできることを考えたりした。また、取組み成果の評価指標を見直したりして、活動が再開できるときに向けて準備を進めてきた。 
もう一方が、「停滞グループ」である。行政のSC担当が新型コロナウイルス対策を担当することになり、活動そのものに手が回らなくなったことで取組みが停滞したところもある。さらに、コロナによる業務の増加に加えて、これまで進められていた行政内での連携の向上も二の次となった。
 そのため、「担当者が異動し、新たな担当がコロナ禍でどうSCを動かして良いのかがわからなかった」「コロナ禍では、(まちづくりよりも)まずはコロナ対策が求められた」といった状況がみられた。
 このところ、ようやくポストコロナを見据えたまちづくりへの動きがみられるようになった。「ピンチをチャンスに変えたグループ」は、「対面」コミュニケーションの重要性を改めて認識するとともに、この間苦肉の策であったオンラインなどの非対面によるコミュニケーションを新たなツールとして活用できるようになった。さらに、市民も日々のコロナ感染予防対策などに関するマスコミ報道に接するなかで、より「根拠」が身近になっており、セーフコミュニティ活動を進める基盤が強化されていると感じている。