労働安全衛生総合研究所 過労死等防止調査研究センター
高橋正也
1.“流行り病”の世界的流行から丸3年
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が現れた当初、その後の状況を想像できた人はほとんどいなかったでしょう。これまでも幾多の感染症を封じ込めてきたこともあって、今回もなんとかなると淡い期待を抱いていました。現実には、私たちの暮らしは大きく壊されました。別な病原体による危機はこれからも来ますので、COVID-19の健康や生活などに及ぼした影響をここで振り返ってみます。
2.眠り方と働き方の現状
健康になる条件の中で、睡眠は最も重視できます。にもかかわらず、わが国の睡眠時間は世界で最も短いと分かっています。しかも、コロナ禍までの数十年にわたって、睡眠は短くなり続けていました。眠り方を決める要因は多数ありますが、働き方はその筆頭です。長時間労働は減ってきている一方で、夜勤交代勤務は増え、働き過ぎや過酷な労働環境に伴う過労死等(脳・心臓疾患と精神障害)は減少せず深刻なままです。
3.COVID-19の唯一の利点としての在宅勤務
COVID-19は私たちの生活にダメージを与えるばかりでしたが、在宅勤務ができるようになったのは唯一の収穫かもしれません。往復の通勤が不要になったせいで、睡眠時間も若干延びました。ただし、事前の準備が不充分であったため、実際の在宅勤務ではかなりの混乱が生じました。自宅でしっかり働くには自身で働く時間をきちんと管理しなければなりません。特に過労や長時間労働を避けるには、体内時計の特徴(昼間に活動し、夜間に休息・睡眠をとる仕組み)に即して働くことが大切です。
4.睡眠と労働の同時改善
眠り方と働き方は密接に関連するため、両者を同時に改善したいものです。例えば、昨今深刻化しているハラスメントの背景には不充分な睡眠があります。よく眠っていないと、些細なことでもイライラし攻撃的になります。ハラスメントの主な加害者である上司は睡眠が悪いと、部下に対して侮辱的に振る舞うことも分かっています。逆に、睡眠が良好であると、私たちは周りの他者をより助けるようになることから、職場内の相互支援が高まると期待できます。
5.働いていない時間の価値
他の国に比べて、わが国は働いていないことに罪悪感を持つように思えます。収入などの点から労働は大切ですが、それ以外の時間にも価値があります。近年、勤務間インターバル制度(退勤から次の出勤までに一定時間を空けること)が注目されています。この間隔が充分に長い(少なくとも連続11時間以上)と、そこに含まれる睡眠や休養を確保できます。結果として、心身の健康が高まったり、安全に行動できたりすることが調査研究から示されています。
6.今後の危機への備え
私たちの生活を脅かす危険はこれからも続きます。将来に備えるには、下図の通り、「知る・守る・敬う」ことを提案いたします。つまり、これまでの経験から得た事実をよく理解し、健康や睡眠などを大事に守り、そうした不可欠なものを敬いながら保証していくのが肝要になるでしょう。