~平成26年広島土砂災害の現場から~

寄稿No.12: 2018年5月

日本市民安全学会 理事
元陸上自衛隊第13旅団副旅団長
河井 繁樹

 平成26年8月20日未明、局地的な豪雨により発生した広島市北部の土砂災害により多くの犠牲者や住宅の倒壊等の甚大な被害を受けました。私は、この時に陸上自衛官として災害派遣に参加し、現場の活動を踏まえながら政府の現地対策本部や広島県及び広島市との連携に関わった経験から、救助活動の現場を見ての所見を述べます。

1 救助部隊の現場連携の具体的意義について

 発災直後から人命救助や行方不明者の捜索等のために、自衛隊、警察、消防に加え国土交通省のTEC-FORCE(注)が現地において活動しましたが、この際、各部隊の連携により、それぞれの特性を活かし、相互に補完し合って、現場で生じた問題点に迅速に対応できたと思います。たとえば、暗渠(あんきょ)の中の捜索で、土砂を取り除くために泥水の中を潜らなければならなかった時に、国土交通省が装備している土砂を吸引できるバキュームが使えたことや、土石流で散乱しているプロパンや自動車からのガス漏れ燃料漏れなどは消防が一元的に対応し、捜索時にあわせて見つかった想い出の品などは警察が一元的に管理することとしました。また、救助活動の妨げとなっていた巨大な岩は、自衛隊の装備を使って砕き、搬出できるようにしました。更には救助活動間の二次被害防止のための避難に関しても連携を図りました。救助活動を行っている部隊・隊員にとって活動を中断して避難するのは気が引けるもので、まして指揮系統の違う4つの部隊は、いわゆる意地の張り合いになって避難が遅れることが危惧されました。このため降雨が強くなった場合は、TEC-FORCEに避難の判断をしていただき、4部隊が同時に避難しました。この際、近くにいる住民やボランティアにも避難を呼びかけることとしました。この他にも多くの問題点を連携で対処することができました。
(注)TEC-FORCE…(緊急災害対策派遣隊:Technical Emergency Control Force)は、2008年に国土交通省に設置された。大規模災害等の際に現地に派遣され、二次災害防止や応急復旧の為に被災状況調査や応急対策及び技術的助言等を行う組織。

2 救助部隊の活動拠点について

 救助部隊は被災現場近くに、部隊が集結し活動を準備し又は整備や休息などのために拠点が必要となります。通常、公園や学校のグランド、体育館などをお借りすることが多いのですが、この時はこれ以外にもパチンコ店や大型商店の駐車場などを使わせて頂きました。特に4部隊の現地指揮所と合同の調整所を現場近くのパチンコ店の駐車場に設置できたことで、朝夕の合同のミーティングや頻繁な部隊間の調整などにより、活動連携や上層部への一貫した報告が円滑に実施できました。また、現地に近いことから、被災者の方々からの情報入手や要望事項の把握が容易で4部隊で調整して対応できました。更に政府やマスコミ関係者の現地入りなどへの対応において、説明や案内等も円滑に実施できました。
 この時は、幸いにもパチンコ店や大型商店の御理解を得て多大なご支援を得ることができましたが、いざ災害の時に適した活動拠点を迅速に活用できるように、平素から自治体関係者のみならず、自治会や事業主等に対しても活動拠点の重要性などについて御理解を得る意義は大きいと考えます。