〜便利さの裏に潜む犯罪〜

寄稿No.13: 2019年2月


日本市民安全学会 顧問
元警察庁指定広域技能指導官
公益社団法人日本防犯設備協会
特別講師 富田 俊彦

1 急速に進化する防犯機器

物がインターネットにつながるIOTの時代が到来して、ビックデーターとAI(人工知能)が連動する新たな機器が次々と開発され、市民生活の分野でも使われています。
 スマートフォンや監視カメラなどがAIと融合することによって多様化・高機能化が急速に進み、防犯だけでは無く、防災や雑踏警備、社会インフラ、市民生活の中に便利な機器が提供されています。更に、2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックに向けて、新たなAI機器の開発が加速されています。

2 便利さの裏に潜む怖さ

 「防犯の要」と言われるカギも進化しており、ノンタッチキー、カードキーをはじめ、指紋、静脈等のバイオメトリックスを利用した電気錠システムやスマートフォンを使って遠隔操作でドア錠を施解錠する錠などが急速に普及しています。
 一方では、合い鍵を複製した犯人が女性の部屋に不法侵入する事件、電子キーの制御設定を変更して不正解錠し人気車種の乗用車を多量に窃取する事件、電子キーの便利な仕組みを悪用した手口でドアを開け、エンジンを始動させて乗用車を窃取する巧妙な犯罪の発生が予想されるなど、その抑止対策が求められています。カメラの高機能化・高解像度化によって人の目では見えない遠方から気付かない場所から撮影された鮮明画像が犯罪者に使用されないかと心配です。使い易さ、格好良さを優先するあまり、安全性が疎かになって、映りすぎのリスクを抱え、今まで予想もしなかった新たな手口の犯罪を誘発し、流出した画像で誹謗中傷されるなど市民の生活に悪影響を及ぼす危険性があります。

3 見えすぎる怖さ

 新聞報道によると、インターネットの情報を使用して、犯行対象の住宅を検索して下見をし、空き巣を繰り返していた4人組の窃盗グループが検挙されています。また、SNSを使用して人を募り、犯行のターゲットを選定し、下見に位置情報検索や投稿履歴を検索して自宅を特定し、家人の留守を把握した上で広域に空き巣の犯行を重ねていた20歳代の窃盗グループが検挙されています。ネットやSNSなどで、見ず知らずの他人から、常時、我が家が見られ行動を監視され
ることに不安を感じます。

4 見られている怖さ

 「顔認証システム」は、ここ数年で急速に普及し、スマホのロック解除、業務用パソコンにログインする際の本人確認、スーパー・書店・ドラックストアーでの万引き防止、空港ビルやスタジアムでの不審者の検索やテロ対策、会社やテーマパークの入退場ゲートのチェック、会員制飲食店の入店チェック、店舗でのキャッシュレス支払いなど様々な分野で使用されています。高精度の防犯カメラが各所に設置されて、日常生活で群衆の中の自分の顔が常時撮影され続け、知らない間に、解像度の高い映像で瞬時に個人識別され、事前登録した指名手配犯人などと照合されています。マスクやサングラスを掛けていても顔の一部からAIが推測して本人確認することが可能となり、顔認証システムの精度は99,2%に上っています。更にカメラは、「群衆の中で不自然な人の行動を読み取る動体検知、人の心理状態から身体の揺れの変化や体温で興奮状態を読み取る感情検知、人の歩き方から特徴をつかんで個人を特定する歩容認証」など夢の様なシステムが次々と開発されています。

5 場所を特定される怖さ

 平成29年3月15日「全地球測位システム(GPS)端末を使用した捜査は違法である」と最高裁判決が出されています。平成30年3月22日、東京高裁では「令状をとらずにGPSシステムを使用して行われた捜査は違法である」と連続空き巣事件で無罪判決が出ました。一方では、一般人が同型の機器をネットで容易にリースして浮気調査や行動確認などで使われているのが現状です。

6 画像を活用した新技術の取り組み

 画像の鮮明度と解析技術が急速に進み「防犯カメラ映像は警察の武器」と言われるほど事件・事故の捜査資料で有効に活用されています。更に、情報技術が進み設置されたカメラや車載カメラで収集した画像と地図情報や統計データーをAIで融合させ、不審者の行動を自動検出し、犯罪の発生を予測して、画像解析や顔認証システムによる指名手配容疑者の特定やドローンによる容疑者の追跡など新技術の研究と開発が進んでいます。

7 問題点と対策

 歴史学者、ユヴァル・ノア・ハラリ氏は、著書「人類の未来・ホモデウス」の中で、「便利になれば人は幸福になれるのだろうか? AIやテクノロジーは神にしか与えられなかったことを自分でしようとしている。AIには感情や主観は無く、人間とは全く違った存在である」と述べています。私達は、進化し続ける技術の恩恵を受け、便利さを共有していますが、その裏に潜むリスクや現状の問題点を正しく把握して、機器のシステムや性能・品質を十分理解すると共に、新たに開発された機器の使用目的を明確にして、許容範囲を検討するなど、一定の線引きや必要な法規制を行い、プライバシー保護や個人情報保護法を遵守し、倫理観を持って、市民生活を脅かすことなく安全に使用されなければなりません。
 尊敬する故田辺隆一*(田響隆仁)先生の「世は神仏が創造し、この世は人が創作する」という教えが重く心に響きます。
*田辺隆一・・・田響隆仁のペンネームで『言の葉の幹を捜す』等の著作がある。