メールマガジン「大地と光」Visionary(2021年10月19日)

先月の研修会でご講演いただいた二瓶圭一氏(駒木野病院)から講演録を頂戴しましたので、会員の皆さまに展開いたします。


精神障害の実態と求められる地域包括ケアシステムの構築 ~依存症について~
医療法人財団青溪会 駒木野病院事務長 二瓶圭一
  1. 精神科医療の概況

精神科医療の概況を解説するにあたり、日本の人口推移や構成について理解することが大切です。2026年には総人口が9000万人を割り込み、総人口の減少に相反する形で、高齢化率は上昇を続け、2065年には総人口の38.4%が65歳以上になると予測されています。

 この状況は、精神科病院における入院患者数の推移にも表れており、年々認知症を主病とする方が増加しています。また、国内における精神科病床は2004年に示された、「精神保健医療福祉の改革ビジョン」以降に徐々に減少していますが、直近でも約 32 万床の精神科病床があり、WHO が把握している世界の精神科病床の総数185万床のうち、5分の1が日本に存在している現状があります。この事は、人口1000人当たりの精神科病床数として、OECD 加盟国の中で最も多く2.63床です。その中でも、東京都の西多摩、南多摩医療圏はその割合が高く5.8床です。

 併せて OECD Health Data2012 によると、定義の違いはあるものの加盟諸外国に比べ平均在院日数も長い状況です。これらの要因の根底には、日本は精神科病院の約8割、精神科病床の約9割が民間医療法人によって運営されていることがあげられます。一方、OECD加盟国の多くは精神科医療を公的医療機関が担う事で、国が何らかの方針や施策を打ち出すと、政策転換が図りやすいと言われています。

2. 依存症について

 アルコール依存症は、飲酒をされる方であれば誰しも発症する可能性がある疾患です。日本国内におけるアルコール依存症の患者数は109万人以上と推定され、そのうちアルコール依存症と診断され治療を受けている方は約5%と言われています。さらに、アルコールによって身体的、精神的、社会的に何らかの障害を引き起こす、もしくは引き起こしている予備軍の方は、1000 万人を超えるとも言われています。

 アルコールは、長期多量飲酒により身体依存と精神依存の両方を引き起こします。さらにアルコールは社会的に容認され普及している嗜好品であり、社会的な重要性が高いという事が対応を難しくさせています。また、アルコール依存症は、心身に及ぼす影響以外に、家族関係の破綻、対人関係や生活基盤、経済的な問題、犯罪行為など様々な関連問題が複合している事がポイントです。

 近年では、アルコールなどの物質依存症以外に、行動嗜癖(ギャンブルやインターネット・ゲーム依存など)も増加し社会問題化しています。依存症を正しく理解し、様々な機関や専門家、支援者が適切な医療やサポートを提供できるかがご本人の回復に最も大切です。

3. 地域包括ケアシステムの構築

 精神疾患の医療体制の構築を考えるうえで、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」(通称:にも包括)の構築が挙げられます。ご本人の地域での生活を中心に考え、「医療」、「障害福祉・介護」、「様々な相談機関」、「就労などの社会参加・地域の助け合い」の4 つが、それぞれ立場や役割を理解し、その地域の特性を理解しながら相互に連携することです。地域で暮らす精神障害をお持ちの方が、安心して自分らしく暮らすことができる地域づくりの構築を目指すことが大切です。医療、保健、福祉、行政の連携強化と重層的で相補的な地域づくりが求められています。

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