メールマガジン「大地と光」Visionary(2022年10月24日)

 10月15日の研修会(日本市民安全学会、警察政策学会市民生活と地域の安全創造研究部会の共催)でご講演いただいた澤田雅之氏(澤田雅之技術士事務所 所長)から講演要旨を頂戴しましたので、会員の皆さまに展開致します。


外環道大深度地下トンネル工事、調布市内陥没事故発生の謎を解く
澤田雅之技術士事務所 所長 澤田雅之

大規模な土木工事は、下手なやり方をすれば、工事自体が市民生活や地域の安全を脅かします。このことを如実に示した実例が、東京外かく環状道路大深度地下トンネル工事現場の真上の調布市内住宅地で、2020年10月に突如発生した陥没事故です。人口密集地帯の地表下47mの大深度地下を、我が国初となる直径16mの超大型気泡シールドマシンで掘り進んでいたところ、「ありきたりの情報化施工」による掘削土砂量の推定があまりにも大雑把で土砂の取り込み過ぎが頻発したため、シールドマシンが通過した後には、あちらこちらに地山の緩みや複数の空洞(その内の一つが地表の陥没に繋がりました。)を残してしまったのです。

大深度地下トンネル工事では、安全の確保に向けて現場の実際の状況を目視で確認することなど、できるはずもありません。そこで、このような難工事の現場での安全の確保に威力を発揮するのが、「緻密かつ的確な情報化施工」です。「情報化施工」とは、工事に伴う現場状況の変化を即座に検知して的確に即応するため、現場で知恵を絞り創意工夫を凝らしつつ、現場に多数のセンサーを設置してデータを取得し、ソフトウェアでデータを解析した結果を即座に工事に反映させるといった工法です。ところが、我が国の土木工事の発注時に普遍的に用いられている「仕様発注方式」では、このような「緻密かつ的確な情報化施工」が実現できないのです。外環道大深度地下トンネル工事も、昔ながらの「仕様発注方式」でした。

 ちなみに、「仕様発注方式」は、他国に類を見ない我が国独自のガラパゴス的な発注方式であり、「性能発注方式」は、グローバルスタンダードな発注方式です

「仕様発注方式」では、工事仕様書作成時、つまり、工事設計時に、施工内容と工法の詳細仕様を確定させなければなりません。しかし、前記の「緻密かつ的確な情報化施工」の詳細仕様については、工事設計時に確定させることができないので、「仕様発注方式」では、「熟して枯れた技術」による「ありきたりの情報化施工」を、詳細仕様として確定することになってしまうのです。現に、外環道大深度地下トンネル工事では、「情報化施工」の内容と工法を工事設計時に確定させたとおりに実施した結果、工事に伴う現場状況の変化を見極めた即応が全くできず、調布市内の陥没事故を引き起こしているのです。それゆえ、現場状況の変化を見極めた即応が欠かせない難工事での安全の確保には、「仕様発注方式」ではなく「性能発注方式」を用いて、施工受託業者の責任において、現場で知恵を絞り創意工夫を凝らしつつ、工事に伴う現場状況の変化を即座に検知して的確に即応する「緻密かつ的確な情報化施工」を実現していくことが不可欠であると言えます。

【講師とその略歴】

澤田雅之(澤田雅之技術士事務所 所長)

1978年に京都大学(院)工学研究科修士課程を修了し、警察庁に入庁。警察大学校警察情報通信研究センター所長を退職後に技術士資格(電気電子部門)を取得して、2015年に技術士事務所を開業。警察では、1996年当時の九州管区警察局宮崎県情報通信部長として、「宮崎県警察本部ヘリコプターTVシステム整備事業」を、我が国では戦後初となる「性能発注方式」で完遂。

澤田雅之技術士事務所 所長
澤田雅之氏

この時に得た知見に基づき、その後に勤務した茨城、宮城、福岡、愛知、神奈川の各県では、建築・土木工事を含む数百件の警察情報通信システム整備事業の全てを「性能発注方式」で完遂。技術士事務所開業後は、「性能発注方式」の警察での実践と成功で得た知見を社会に幅広く還元していくため、国土交通省、地方自治体、民間団体等で数多の講演を実施。また、数十年来のライフワークである「性能発注方式」を集大成した書籍【「性能発注方式」発注書制作活用実践法】が、2022年9月に(株)新技術開発センターから出版された。

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