2020年6月13日
[主催]日本市民安全学会
20年後も安全な地域生活を可能にするスマートセーフコミュニティ
東京工業大学教授 西田佳史氏
近年、様々な社会問題が顕在化する中で、これからの地域社会の方向性についてお話ししていただきました。少子高齢化が進み、単身世帯の割合も増えています。また、高齢者による消費者相談件数も増加しており、特に架空請求詐欺に関する相談は多いようです。さらに、製品事故によって高齢者の事故が増えています。脚立から落ちて怪我をしたり、石油ストーブに灯油ではなくガソリンを入れて事故に遭ったりすることも散見されます。一方、支える側の行政のパワーも脆弱化しており、特に消費者行政の職員の減少が顕著になっています。
このように、消費者が孤立し、消費者行政が弱体化する中で、いかに有効な情報を届けたい人(高齢者など)に届けていくかが大切となってきます。その中で、スマートセーフコミュニティというアプローチの方法が有効と考えられます。ハード中心のスマートシティが進展する一方で、ソフト中心のセーフコミュニティも一部ですが盛んに行われています。これらはエビデンスに基づいた検証を行うという意味で、非常に相性がいいのではないかと考えています。例として、母子手帳の電子化などを行っている、会津若松市の“会津若松プラス”を解説していただきました。
さらに、消費者に情報を届けることの大切さの例として、折りたたみベビーカーの指はさみ事故を起こさない機構の開発や対策済み製品への交換の推奨、消費生活センターのPIO-NETデータを用いた消費者事故の分析なども説明していただきました。スマートシティとセーフコミュニティの融合によって、行政と消費者をつなぐ有効な手段となりえると考えられます。
本講演でも出てきましたが、ノーベル平和賞を受賞したガルトゥングによれば、病気の不在を健康というが、病気そのものを扱う能力を持つことが健康へのアプローチであるとしています。私達も、「安全=危険の不在」ではなく、危険を扱う能力を持つことこそ、日本市民安全学会の方向性と言えるのではないでしょうか。