メールマガジン「大地と光」Visionary(2021年3月11日)

 先に行われた研修会での、山下史雄氏によるご講演要旨をお届けします。山下先生は、かつて、日本史上最悪と言われた犯罪情勢の中、警察庁生活安全局⾧としてご尽力され、ご講演では、治安改善の概要はじめ市民の安全・安心を脅かす新たな課題について詳しくお話をいただきました。


犯罪情勢の推移と警察の取組
元警察庁生活安全局⾧ 山下 史雄

 平成 14 年に約 285 万件まで増加した刑法犯認知件数は、その後官民一体となった総合的な犯罪対策等により令和元年には約 75 万件まで減少した。政府、自治体、警察の取組とともに、事業者による犯罪防止に効果のある製品 ・システムの開発・普及や地域住民による自主防犯活動は、犯罪の減少に寄与した。

 一方で、今日、市民の安全・安心を脅かす新たな課題が出現している。

 一つは、ストーカー、DV、児童虐待といった個人の私的な関係性や私的領域の中で発生する事案である。ストーカー事案は、相談件数や検挙件数がここ数年高水準にある。痛ましい事件の発生とそれを受けたストーカー規制法の制定・改正、都道府県警察における対処体制の確立等により、ストーカー対策は強化されてきた。今後は、これらとともに、警察で取組が進められている加害者に対する精神医学的アプローチが重要と考える。児童虐待は、警察からの通告児童数が年々過去最多を更新している。これまで、児童福祉法・児童虐待防止法の改正により児童相談所の体制、機能の強化が図られているが、重要なのは児童相談所と警察の連携・協力である。必要な情報を的確に共有し、児童相談所が児童と面会できず安全確認ができない場合等には迅速な連携対処により、被害児童の早期発見・早期保護が図られなければならない。

 もう一つは、特殊詐欺、サイバー犯罪といった加害者が被害者と対面することなく犯行に及ぶ非対面型犯罪である。特殊詐欺は依然として被害が深刻で、令和元年ではキャッシュカードを騙し取る又は窃取する手口、親族以外を騙る手口が主流を占めるなど、犯行形態が刻々と変化している。被害防止のためには、高齢者だけでなく、その子供や孫を含めた幅広い世代に対する広報啓発と、金融機関、電話通信事業者等と連携した対策の強化が必要である。サイバー犯罪には多様な形態が見られるが、SNS に起因する子供の性被害が年々深刻となっている。警察庁は文部科学省と連携して学校教育の場で活用できる被害事例を記載した啓発資料を作成した。児童・生徒が被害に巻き込まれないようインターネット利用の注意事項を十分教えていただきたい。併せて、被害事例が認められるサイトを管理する事業者による自主的な取組が重要である。

 将来に向けた市民生活の安全・安心のために、警察、とりわけ生活安全警察には、①犯罪情勢分析を高度化して、具体的な問題点の抽出とその解決を図る問題解決型対策を進めること、②警察以外の 主体との一層の協働、連携強化を図ること、それに必要な情報発信、オープンデータ化、人材育成を更 に進めること、③ビッグデータの解析やAIの活用等最新の科学技術の活用を図ることを期待したい。

■掲載された記事を許可なく転載することを禁じます。
©日本市民安全学会