メールマガジン「大地と光」Visionary(2021年4月12日)

 新型コロナ情勢は混迷を極めておりますが、看護する医療スタッフも不安やストレスと無関係ではありません。今回、秋田看護大学の山田先生から、看護の現場でのメンタルヘルスについてご寄稿いただきましたので、お届けいたします。


新型コロナ感染症禍と看護学 ~メンタルヘルスに焦点をあてて~
日本赤十字秋田看護大学 山田 典子

はじめに

 いま、渋沢栄一の論語と算盤、そして、NHK ドラマが話題となっている。ところで、渋沢が最後まで関心を寄せていたのは、戦争孤児の保護や身寄りのない高齢者の養護、さらに高齢者の福祉・医療・研究等の「養育」事業であったことは、あまり知られていない(東京都健康⾧寿医療センター,2013)。

 人は古来、外界の危害から身をまもり傷ついたり病んだりした時に互いにいたわり、助けあい、生の営みを続けてきた。Care(ケア・看護 ・支援)の必要な人に寄り添い勇気づけ労わるこころ、それが養育 ・愛着・保育の原点ではないだろうか。渋沢翁の本当の偉さは、この優しさにあったと思えてならない。

 実は、看護の Nursing の語源は、nurture(養育・愛着・保育)から派生したもので、「看護」とは慈しみの心をもって人を見守る生業である。医療現場のみならず、コロナ禍で生じた人々のこころの歪の問題、また、超高齢社会での地域医療格差の問題や地域包括ケア等において、看護職の存在が注目されている。

出典:東京都健康⾧寿医療センター養育院・渋沢記念コーナー(2013)櫻園通信1~3,6,7,9.

1 コロナ情勢とメンタルヘルス

コロナ感染禍がいつまで続 くのか分からず先の見通しが持てない中、失業率の増加、社会経済活動の縮小と生活困窮等による不安が増大している。自粛生活の⾧期化、在宅ワークが増えデジタル優位の従来と異なる仕事の仕方に慣れず、同僚や上司から随時支援も得られない。プライベートな時間と空間が仕事部屋と重なる等、これらがストレスにつながっている。家族関係の課題として、濃密すぎる家族の時間がストレスとなり、虐待や暴力、ネグレクト、鬱、自殺、依存症の増加が散見される。

■全国の自治体に設けられているDVの相談窓口、「配偶者暴力相談支援センター」と内閣府の相談窓口に寄せられた相談件数の合計は例年の1.6倍、2020年7月以降も1.4倍となっている。

【法務省 女性の人権ホットライン】 電話番号 0570-070-810(全国共通)
【DVの相談窓口 】「DV相談ナビ」#8008(はれれば) ※電話の受付時間は地域によって異なる。
「DV相談+」 電話 0120-279-889(つなぐ・はやく)※24 時間、電話とメール受付

■警察庁のまとめより、全国の自殺者は去年より増加し、確定前の速報値では153人で、このうち女性は851人(去年の同じ時期より 82.6%増)だった。
【自殺の相談窓口】厚生労働省のサイト http://shienjoho.go.jp/

2 依存症の増加と当事者への関わり方

依存症(アルコール、ゲーム、セックス、窃盗、暴力等)でも、特に、アルコール依存症の治療例の紹介と、依存的に関係する人間関係の問題について対応を学ぶ必要がある。当事者の特性として、

① 自己評価が低く自分に自信が持てない

② 人を信じられない

③ 本音を言えない

④ 見捨てられる不安が強い

⑤ 孤独で寂しい

⑥ 自分を大切にできない

等があげられ(成瀬 ,2017)、周囲にこれらの課題を持っている人はいないか、万が一いた場合は、早期にアセスメントし介入することが大切である。
なお、飲酒問題とうつ、不安、パニック発作、不眠は関連があり、身体不調を軽視したり、放置したりすることで悪化する可能性があるため、早期発見と介入が肝要であり、最寄りの精神保健センター等、専門家への相談をしてほしい。本人に依存症等の自覚がなく、相談や受診を拒否することがある等、そのような場合は迷わず、困っている家族の相談や受診を願いたい。そこから、よい方向へ変化する。

出典:松本俊彦,他(2011).薬物・アルコール依存症からの回復支援ワークブック.金剛出版.成瀬暢也(2017).アルコール依存症治療革命.中外医学社.

3 対策・対処におけるコミュニケーションの工夫

不確かであいまいな今こそ、『人 』に敏感になり、脈絡を考えながら相手が表現している以上の意味を、そして、先の予測を立て、察することによる「感じとる」「予測し心くばる」「声をかける」「頃合いをみる」メタ・コミュニケーションを試してほしい。Benner(2005)は、「ベナー看護論新訳版―初心者から達人へー」で、実践的知識の中にある「鑑識眼」を、直観に基づき認識し判断する力であると述べている。

おわりに

ポスト・コロナ社会を生き抜くために、治療でも刑事処遇でもない場の提供、「受容、動機づけ、協働、個の尊重」に重きを置き、「その人の生きにくさへの支援」へ主眼を置いた市民安全を願う人々の、他者への温かな関心が本学会で醸成されることを願っている。

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