メールマガジン「大地と光」風ニュース(2021年4月23日)

 近年の薬物犯罪情勢、大麻使用者の低年齢化について、神奈川県警の志水氏にご寄稿いただきましたので、お届けします。

神奈川県警察本部 刑事部 組織犯罪対策本部
薬物銃器対策課 薬物捜査伝承官  志水 佳比古

1.将来を担う若者の間で大麻乱用者が急増
 薬物犯罪 で検挙 される人は、全国 で毎年1万4,000人前後おり、神奈川県内 だけでも毎年1,100人前後もの人が検挙されています。 この中で今、私が最も心配していることは、日本の将来を担う若者たちの間で薬物犯罪が増え続けていることです。特に大麻犯罪の増加は顕著で、少年による全国の大麻犯罪の検挙者は、5年前は年間210人でしたが、年々増え続け、昨年は887人でした。神奈川県内では、さらに顕著な増加がみられ、5年間で15 人から98人と実に6倍以上のハイスピードで増えています。(下記表を参考)

検挙された少年の中には、大学生はもちろん、高校生や中学生もいました。昨年中、神奈川県警察において薬物犯罪で検挙した大学生は、28人にも及んでおり、将来を嘱望される若者たちが薬物に汚染されてしまうことが残念でなりません。

2.年齢、性別、職業等を問わず薬物犯罪は広がっている
 薬物犯罪は、多 くの人が他人事と考えがちですが、じつはとても身近な犯罪なのです。薬物犯罪で検挙される人は実にさまざまで、年齢層も小学生から90歳くらいのお年寄りまでと幅広く、男女の区別もありません。また、現職の警察官から学校の先生、医師、看護師、薬剤師等、あらゆる職業の人が薬物犯罪で検挙されていますし、スポーツ界や芸能界でも検挙されている人たちが大勢いることは皆さんご存知のとおりです。薬物犯罪は、年齢、性別、国籍、職業などは関係なく、あらゆる”境”を飛び越えて、ものすごい勢いで広がっているのが現実です。

3.好奇心から薬物に手を出す若者
 若者の間では、先輩やネットなどから「ダイエットに効 く」、「受験勉強に集中できる」、「みんなやっている」、「誰にも迷惑をかけない」等といった間違った知識や情報が入ります。大麻は「草」「野菜 」「葉っぱ」、合成麻薬は「タマ」「バツ」「エクスタシー」、覚醒剤は「エス」「スピード」「アイス」等と洒落た名で呼ばれ、使い方も昔のように注射器を使うのではなく煙を吸う方法に変わってきています。また、大麻リキッドは「タバコ感覚 」、大麻クッキーは「お菓子感覚 」、錠剤の合成麻薬にいたっては「ジュース等に入れて健康補助食品のような感覚で飲んでしまう」等、ファッション感覚で違法薬物が使われています。 今は自分が求めれば、ネット等で簡単に違法薬物を買うことができる時代ですし、購入価格が手頃になってきていることも若者が手を出しやすくなっている理由だと思います。

4.薬物乱用の「悪魔の囁き」と「奈落の底」
 人が違法薬物に走るのは、わずかな時間であっても、快楽感、多幸感、爽快感等を味わえ、また、悩み、ストレス、孤独感等から一時的に解放されるといった「悪魔の囁き」ともいえる薬理作用によるものです。しかし、この薬理作用は数分間から数時間 しか続 きません。副作用 として疲労感 、倦怠感、無力感、不安感、孤独感、悲壮感、不快感等に襲われ、違法薬物を繰り返し使うようになり、薬物依存という「奈落の底」へと陥ってしまうのです。薬物犯罪の本当の恐ろしさは、この薬物依存にあります。世の中にはさまざまな犯罪がありますが、その中でも薬物犯罪は再犯率が高いという特徴があります。覚醒剤犯罪の再犯率は 60%を上回っており、それだけ止めることが難しい犯罪なのです。 さらに、違法薬物を使い続けていると程度の差こそあれ、幻視、幻聴、幻覚、幻想等の症状が現れ、これを起因として薬物乱用者による殺人や放火等の様々な犯罪、自殺、交通事故等が発生することとなるのです。

5.効果的な薬物乱用防止対策
 薬物乱用防止に即効薬はありません。警察等による末端乱用者の検挙(需要の根絶)と密輸 ・密売等薬物犯罪組織の壊滅(供給の遮断)など徹底した取り締まりだけでは薬物犯罪をなくすことは出来ません。すべての国民が薬物犯罪の危険に晒されているといえる今、小学校まで含めた学校教育現場はもちろんのこと、社会全般において薬物乱用防止教育等の啓発活動を進めることが大切です。

 薬物に頼らないためには、孤独感、悲壮感、不安感等を取り除く環境が重要となります。人と人との絆がもたらす力が必要となるのです。会話や笑顔がない家庭、学校、職場、社会は薬物乱用の温床となり得るということをよく知っていただき、人との確かな絆を育むことが薬物の乱用を防ぐこととなります。

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