メールマガジン「大地と光」風ニュース(2021年6月9日)
コロナパンデミックのなか、医療崩壊が取り沙汰されています。今回は、国際緊急災害医療の分野でご活躍の原口義座先生から、「トリアージ」についてお話いただき、また、論文要旨を頂戴しましたのでお知らせ致します。5月8日の特別研修会(警察政策学会部会との共催)で行われたものです。
コロナパンデミック : 『トリアージと市民安全』
京葉病院 原口義座
- 基本となる災害の分類(原口)
災害は多岐にわたりますが、複数重複したものとして考えることが合理的
- 取組の基本概念
災害に対してどう取り組むべきかについては、幾つかの考え方があるが、(災害に)打たれ強いしなやかな「レジリエント(Resilient)な社会」ということで、2007 年以前から Resiliency を重視してきました。「トリアージ」という医療行為も、この目的のために行われるものです。
- トリアージの基本的な定義
トリアージとは、災害発生時に「多数の傷病者を同時に扱う際に、優先順位をつけ、最大限傷病者を救命する作業」で、「災害で著しく物品・人員・施設状態が不足する状況に対し、被災者の障害を最小限にする。」というものです(現在、取り沙汰されている「医療崩壊状態」もこれに当たると思います。)。
実はこの言葉の語源は、フランス語で「選別する」意味の「トリアージュ: Triage」とされ、ナポレオンの軍医が最初に、戦場で始めたとされます。
A) 必要性 集団災害直後は、医療部門の人的・物的資源が絶対的に不足する中で、多くの生命を救う(健康障害を減らす)ために、確実,速やか,効率よい選別が必要
B) 考え方 救命が最優先で、次で機能温存、美容の順となります
C) 分類 傷病者を緊急性(と重症度)から通常4段階に分類
カラーコード(写真のトリアージタッグが代表)をつけて判別する。
緊急度・重症度順に①赤、②黄、③緑、④黒を用いるのが一般的
D) 「トリアージタック」の使用法 ミシン目があり、状態に応じ(トリアージ結果に基づき)、カットしていくというのが、代表的なやり方です。
1)最上段 (黒)
死あるいは救命困難、治療を回避あるいは
回避せざるを得ない
2)上から二段目(赤)
緊急・重症・直ちに処置・治療が必要、大出血・窒息・バイタルサイン異常状態
黄と赤の間を切り、以下を取り去る
3)下から二段目(黄)
中等症・準緊急で数時間は待機可能
緑を切り取る
4)最下段 (緑)
軽症・非緊急状態
カット不要
:赤と黒の間を切り、下 3 段を取り去る。
余談ですが、ドイツ国旗をご存知の方は、軽症・中等症の際は、良いですが、重症(緊急)・救命困難の際は、ドイツ国旗を切り裂くようになってしまい、ドイツ人には、使いにくいタッグと考えられます。
- 特殊災害(NBC~トリアージ事態)と市民安全
(1) 今 後 、 特殊災害(NBC:核Nuclear, 生物毒Biological and 化学物質 毒 Chemical Disasters/Hazards や、複数災害合併時等)が予想されるところ、「トリアージ」についての考え方について、若干の修正・補足が必要となります。(私見:●印は特に重要)。
現在のコロナパンデミックは、生物毒 Biological(B)に分類されます。
(2) NBC対策・・・まず、パンデミック(B)から説明します。
・B: パンデミック: 〇汚染対策(表面+内部)+●拡大防止
表面:ここでは、代表的な対応としては、手洗い・うがい・マスクによる病原体のブロック
内部:抗菌剤・ワクチン・その他の薬剤類・重症時は救命治療
拡大防止:コロナ感染症を例に挙げますと 3 密、更に感染者の隔離、特に強い感染力を持つ患者をスーパースプレッダーと言いますが、しっかりした対策
・N: 核災害時 : 汚染対策(○表面+●内部)+○汚染拡大防止
表面:放射性物質の皮膚付着時は、手洗い・うがい・マスクによる病原体のブロック
内部:放射能汚染時は、甲状腺剤の服用(甲状腺がん予防)、その他キレート剤等による排出促進、がん等後期の合併時は治療
汚染拡大防止:放射線被ばくを減らす場所の選択、放射能汚染物質を避ける(環境・雨からの回避、飲食を避けるなど)配慮超⾧期視点
・C: 中毒災害時 : 汚染対策(○表面+●内部) +○汚染拡大防止
表面:接触やガス体時は吸入(サリン等の有毒ガス類)を避ける
内部:汚染時は体内からの排出促進(薬剤)や救命処置の施行
汚染拡大防止・有毒物質の早期除去(気体・液体・固体)と中和(薬・物質)使用
・その他、爆発災害等:一般の外傷等を伴う災害対応に加えて+上記を想定
なお、N に関しては A:Atomic と略すこともあります(余談ですが、1999年の東海村臨界事故以降、私たちは、NBC も ABC も米国の代表的なテレビネットワークと同じ略語だと言って、冗談めかして、しばしば講に用いてきた経緯もあります)。
(3) 心のケア:早期から⾧期にわたって重視すべき これは、全ての上記災害に共通の課題であると考えています。
5.トリアージと市民安全
まとめですが、トリアージと市民安全を考える場合、その背景にある人間・自然・動物等に対する基本的な理念・哲学・姿勢・ヒューマニズム等が必要であることを強調しておきたいと思います。
なお、本ご講演後、原口義座先生から、津端徹先生、星野正巳先生、友保洋三先生との共著論文をお送りいただいておりますが、⾧文の為、今後、機関誌等にてご紹介させていただきたいと思います。