メールマガジン「大地と光」風ニュース(2022年3月9日)

 2月22日、警察政策学会の市民生活と地域の安全の社会創造研究部会研修会の内容についてお届けします。当日は、元警視庁捜査第一課長光眞章(みつざねあきら)先生をお迎えして、オンラインにて開催しました。現在、光眞先生は、全国足紋普及協会理事、全国万引犯罪防止機構事務局長他数多くの要職をしていらっしゃいます。

元警視庁捜査 1 課長が学会で語る
元警視庁捜査第一課長 光眞章

1. 犯罪捜査と歯科について

(1) 犯罪捜査では、死体は、殺人事件・傷害事件・過失致死事件・死体損壊・遺棄事件犯罪の構成要件であり、個体識別が必要であります。
事件以外の事故死・災害死についても、必要な検査・解剖により死因の究明を行うとともに死体の身元を解明することが、警察の責務であります。

(2) 死体の個別識別作業を行い身元を特定します。
 (ア) 身元確認は、身体特徴など外形から行われていますが、科学的方法としては、歯型・指紋・血液型・DNA 型等が主にあります。現在、当協会では災害に際して「足紋」による方法で確認を行うように普及活動をしています。
 (イ) 歯型は、法歯学医(警察歯科医)が行っています。歯科医の先生の協力なくして身元の確認は出来ません。歯型は、法歯学医が治療痕など患者のカルテと対照して身元を確認します。日本は、保険制度があり、ほとんどの人が歯科医に治療を受けています。他方、発展途上国の外国人は、歯科治療を受けることが少なく、歯型から身元確認は難しいです。
 (ウ) 警察は、何故身元確認を急ぐか 次の3点があります。
  〇 事件・事故の判断をして事案の早期解決を目指します。
  〇 ご遺体を早急に遺族にお返しします。
  〇 国民に知らせる社会的義務を果たします。
 (エ) 現在、身元確認の 3 要素
  〇 指紋照合 終生不変・万人不同 ⇒指紋は世の中で一人
  〇 歯牙鑑定
  〇 DNA 型鑑定
 (オ) 指紋採取は、犯罪者のみ行っています。一部の国は、指紋採取を義務化しているところもあります。警察では、犯罪者でない人の身元確認は、生前に使用していた手帳等から採取して照合します。DNA 型鑑定は、「在宅」つまり、生前使用していた櫛・歯ブラシ・眼鏡などから毛髪・皮膚片・汗等の資料を抽出し、鑑定をします。

(3) 身元を確認した事例
 (ア) 交通事故による焼死者については歯型から確認しました。
 (イ) 殺人・死体遺棄事件で歯型から確認しました。
 (ウ) 一部腐乱水死体から歯型から確認しました。
 (エ) 飛行機事故の死体・災害死等から歯型から確認しました。(日航機墜落事故等)
 (オ) その他に身体特徴・入れ墨・指欠損等で確認しました。

2. 身元確認に有効な「足紋」の普及について

(1) 足紋とは
足裏の面の隆線を押なつし作成された資料とご遺体の足紋と照合するものです。足紋は、指紋と同じで終生不変・万人不同です。採取し作成された資料の保管はまだ決まっていませんが、今後予想されます
南海トラフ、首都地下型巨大地震の際、相当の身元不明遺体が予想されます。
したがって、生前中に足紋を採取作成保管していれば、災害時に身元不明にならず家族のもとに帰ることができると確信します。

(2) 足紋採取要領
足紋採取キットにより採取し、別の保管用用紙に転写する方法を活用しています。「足紋」は、個人情報であることから各自で保管をしていただいていますが、将来は、公的機関が保管するのが適切と考えています。

3. 万引犯罪の現状と問題点について

(1) 統計からみた現状

(2) 犯罪の傾向
2021 年の統計を見ると、全刑法犯の認知件数が隔年減少していますが、万引犯罪認知件数は、全刑法犯認知件数の 15.2%と年々上昇しています。2000 年代 4 万人台を超えていた少年の万引が、昨年は6千人台に減少したのに対し高齢者は、2004 年以降 2 万人台に推移し、高止まりの状態にあります。

(3) 万引の理由を調査結果
最近では、コロナ禍に伴い年金では苦しいと節約感あり、その背景には孤立・孤独が予想されます。また犯罪者の再犯・常習犯が多くみられる。

※ 法務省の犯罪白書(平成 30 年度)による高齢者万引調査
  〇 万引犯罪の動機は 55%が節約で、生活困窮が 27%です。
  〇 万引犯罪の被害額は 70%が 3、000 円未満です。
  〇 盗み癖 女性 3 割・男性 2 割で心身の問題も同率でした。
  〇 家庭の事情は、男女と異なりますが、男性は、同居人なしが半数、近親者なしが3割、一方女性は、同居 7 割、近親者 2 割となっています。

(4) 外国人の犯罪傾向
 東南アジア系のベトナム人・中国人の万引犯罪が多くみられ、特にベトナム人は、生活に困窮した実習生らによる犯行が見られます。また、万引きをした品物を換金する手段としてネット市場に転売しています。更に、注文を受けてから万引きに行く「受注万引」犯罪も見受けられます。以上、全刑法犯の犯罪が、戦後最少になっても万引犯罪は、減少しておらず、社会の安全安心を確保するために対策が必要であることをご理解ください。

これで、私の講演会を終了させていただきますが、私どもは、大震災など災害被災者の身元確認に供するために「足紋」採取をお願いしています。この点も皆様方のご協力を賜りますようにお願いいたします。会員の皆様、リモートによるご清聴ありがとうございました。
警察政策学会(市安研)及び日本市民安全学会の益々のご発展を祈念します。

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