メールマガジン「大地と光」風ニュース(2022年3月24日)
2月19日に行われた研修会の模様をお届けします。学会会員である京都産業大学の浦中千佳央先生に、フランスの情勢についてご講演いただきました。浦中先生から講演要旨を頂きましたので、会員のみなさまご高覧ください。
仏のテロ緊急事態からコロナ衛生緊急事態、そして極右の台頭
~民主主義への重大な脅威を占う、仏の治安情勢と大統領選挙~
京都産業大学法学部教授 浦中千佳央
2015年1月のシャルリエブド編集部襲撃事件を発端に、フランスはイスラム過激思想に影響された若者による波状的なテロに襲われ、加えて、新たなテロ発生の危険が絶えず、これを予防するテロ対策が大きな課題となった。
このため「緊急事態」が布告された。この緊急事態を定める法律は、アルジェリア独立戦争時に多発したテロを抑え込むものとして考案されたもので、県地方長官の行政警察権を一時的に拡大し、基本的人権の制約をもたらす、普段であれば許可されない例外措置を含むものであった。
そしてコロナ禍により「衛生緊急事態」が布告され、ロックダウン、夜間外出禁止令、教育施設の閉鎖、必要な財・とサービスの徴発・徴用(高性能マスクなどの衛生資材の徴発、医療関係者の徴用)、マスク着用義務化などが行われた。さらにワクチン接種が可能になってからは、ワクチンパスや医療従事者へのワクチン接種義務化を行った。
これらのコロナ対策も「往来の自由」、「営業の自由」などの基本的権利、言ってみれば、人の自由を制限するものである。これら一連の動きから垣間見れたフランスのコロナ対策は、国による私権制限を伴う強い権限に基づく施策であった。日本のように政府が国民への「お願い」や「要請」をしますが、良識ある行動を導くものでなく、国の有する強力な権限により、コロナを封じ込めようとするフランスの施策、フランス社会の変化を紹介した。
最後に4・5月に行われる共和国大統領選挙について話をされ、中道の現職のマクロンの優位は変化がないものの、有権者の3割強が、移民・難民問題、治安問題の解決を唱える2名の極右系候補のいずれかに投票するとの調査結果が出ている。特に世論調査では調査対象の警察官、軍人の多くも極右系候補への投票を指向していることが明らかになっている。
テロ予備軍ともいわれるイスラム系若者の急進化、過激化だけでなく、コロナ禍により顕著になった格差社会、住宅、教育問題、そして既存政党の没落により、左右の急進的な勢力が支持を伸ばす政治の両極化、フランス社会の極右、超保守主義への旋回が、民主主義への重大な脅威となっていることを分析された。