寄稿No.5: 2014年3月
学会理事 大川 哲次
公益財団法人全国篤志面接委員連盟常任理事
大阪犯罪被害者支援アドボカシーセンター副代表理事
弁 護 士
私は、現在大阪市北区内で弁護士業をしながら、ボランティア活動として近畿地区の刑事施設(刑務所・拘置所)や少年施設(少年院)の矯正施設7ヶ所で篤志面接委員活動を長年にわたり行っている。篤志面接委員とは、矯正施設まで定期的に直接出向いて行って、それら施設の中で収容されている受刑者や少年たちに対して、面接や指導、教育を行い、その改善更生と社会復帰を手助けする民間ボランティアである。全国でいろいろな職業や経歴の約1800人の人たちが、法務省から正規の委嘱を受けて一生懸命に活動している。
過去の統計上矯正施設の入所者の半数以上を再犯者が占めており、犯罪の約6割を約3割の再犯者が起こしている。刑務所や少年院からの出所者の再犯を防止し、いかにうまく社会復帰に導くかは市民の安心・安全を守る犯罪のない社会を築き上げるための一番の急務の課題と言える。刑事司法手続きには、①捜査(警察・検察官)、②刑事裁判・少年審判(裁判所)、③矯正(刑務所・少年院)、④更生保護(保護観察所、厚生保護施設等)の4段階がある。犯罪者の再犯の防止とその更生のために直接関与するのは、第3段階の矯正と第4段階の更生保護である。私は、矯正段階で篤志面接委員として関与している。
平成7年5月に約100年ぶりに旧監獄法が全面的に改正され、新たな刑事施設法が成立した。その趣旨は、刑務所における作業中心の旧監獄法のもとでは出所者の再犯が一向に減少せず、犯罪者に対する更生教育が十分に成果をあげることができなかったことからの反省である。そのため、新法では、作業だけでなく、それまでにも行われていた刑執行開始時の指導と釈放前の指導の他に、受刑者に対する改善指導や教科指導の矯正指導が行われることになった。一般改善指導とは、犯罪の責任を自覚させ、健全な心身を培わせ、社会生活に適応するために必要な知識や生活態度を習得させるために全ての受刑者に行われている指導である。特別改善指導は、改善更生や円滑な会復帰に支障を来たす受刑者の個別の事情を改善するために行う指導であり、①薬物依存離脱指導、②暴力団離脱指導、③性犯罪再犯防止指導、④被害者の視点を取り入れた教育、⑤交通安全指導、⑥就労支援指導の6種類がある。私は、最近においては、奈良少年刑務所と大阪医療刑務所と和歌山刑務所における一般改善指導としての被害者感情理解指導、大阪刑務所における特別改善指導の一つの被害者の視点を取り入れた教育、和歌山刑務所における就労支援指導を行っている。更にそれに加えて大阪拘置所においては仮釈放前指導も行っている。
犯罪統計では、満期出所者のうち、約半数が親族等の受入先がない受刑者(適当な帰住先のなかった者の約6割が1年未満に再犯に及んでいる)で占められている。そのような受刑者の中で高齢もしくは障害のため社会内での自立が困難な者が全国で一年間に約1000人にも及んでいる。それら出所者の再犯率が高くなるのは必然であって、福祉や医療支援等の司法と福祉を結び付けて行う再犯防止施策の実施が強く求められている。
私たち篤志面接委員の役割としては、今後は単に矯正施設内における矯正教育の活動のみならず、犯罪者の出所後の更生保護の段階まで可能な範囲でその活動の場を広げていく必要がある。更には犯罪者を生んでしまったのは地域社会全体の責任とも捉えられるのであるから、それら犯罪者の更生と自立についても地域社会全体の責務であるという意識を地域社会の人たちに植えつけていく運動を展開していきたい。その地域社会全体が出所する犯罪者の受け皿となったり、その就労を支援する等で犯罪者の更生に積極的に協力・寄与することによって、初めて市民の安心・安全は図られていくものと考える。