寄稿No.11: 2017年2月

日本市民安全学会 理事
科学警察研究所 犯罪行動科学部
犯罪予防研究室 特任研究官
原田 豊

 市民安全学会に私が入会させていただいてから、まもなく5年になります。研究成果の「社会実装」という重い宿題と悪戦苦闘しながらも、皆様の温かい励ましを支えに進めてまいりました。おかげさまで、『聞き書きマップ』などの成果物を市民安全の取り組みの現場に届ける道筋が、ようやく見えてきた気がしています。
 今年、私たちの試みは、まさに正念場を迎えます。「日本版GPS」とも呼ばれる「みちびき(準天頂衛星システム)」が、いよいよ本格運用に向けて動き出すからです。

「みちびき対応」にならなければ『聞き書きマップ』は完成しない

私たちは「『簡単・安く』を極める」を合言葉に、『聞き書きマップ』の開発を行ってきました。外国製の安価なGPS受信機やICレコーダーを使うことで最初の購入価格をギリギリまで抑え、「維持経費(ほとんど)ゼロ」も実現しました。一方で、これまで使ってきたGPS受信機には、大都市のビル街などで測位の結果が大きく乱れること、品質管理が不十分で突然故障すること、などの欠点がありました。
 2018年から「4機体制」での運用が始まる「みちびき」は、これらの問題を抜本的に改善する可能性を持っています。4機のうち最低1機が必ず日本の天頂近くに見える独特の軌道を取るため、ビル街などでも安定した測位ができると期待されています。
 つまり、この「みちびき」に対応できて初めて、『聞き書きマップ』はほんとうに「完成」したと言えるのです。

義務教育での普及を通じて全国民の手に

 「みちびき対応」ができたとしても、「社会への実装」の実現のためには、さらなる戦略が必要です。私たちは、「義務教育の現場」への普及が、その鍵になると考えています。
 そこで、昨年度から、文部科学省による「防災教育を中心とした実践的安全教育総合支援事業」のお手伝いをしています。その初年度のモデル校となった小学校が(一社)地理情報システム学会の主催する「初等中等教育におけるGISを活用した授業に係る優良事例表彰」で、国土交通大臣賞を受賞しました。幸先のよいスタートを切ることができたと思っております。
 『聞き書きマップ』を使った安全点検活動は、新しい学習指導要領にも盛り込まれた「アクティブ・ラーニング」(体験学習)そのものです。また、2022年に高等学校の必修科目となる予定の「地理総合」を先取りする学習にもなります。準天頂衛星のしくみを活用することで、宇宙技術への興味を持ってもらうきっかけにもなるでしょう。つまり、つぎのような「実装への方程式」が、小中学校の現場で成立するのです。

教育現場への実装 = (安全教育+地理教育+宇宙教育)×「体験学習」

 この方程式に沿って小中学校の現場への普及を図ることができれば、全国民にとっての「義務」教育というチャンネルを通じて、確実に国民一人ひとりに研究成果を届けることができます。これが、私たちの考える社会実装の戦略です。

「ジャパン・クオリティ」の受信機開発で一気に実現を!

 ただし、この戦略が成功するためには、一つ重要な前提条件があります。学校現場に今あるパソコンと組み合わせて使える、準天頂衛星システムに対応し、安価で高い信頼性を備えた受信機の開発です。
 文部科学省によれば、2016年3月現在で、小中学校にある教育用コンピュータは、約96%がウィンドウズ系のパソコンです(下図)。

教育用コンピュータのOS別割合(中学校)

 それ以外のパソコンや「スマホ」などは、学校現場には「ない」のです。ですから、小中学校の現場で「今すぐ使える」しくみとしては、『聞き書きマップ』のような「ウィンドウズ系パソコン用のソフトウェア」と、「安価な受信機」とを組み合わせる方法が、文字どおり唯一の選択肢なのです。
 そのような受信機を「作ってみよう」と手をあげてくださるメーカー様が、最近ようやく見つかりました。現在、これまでのGPS受信機・ICレコーダー・(最小限の)デジタルカメラの機能を1つにまとめ、行政などに「消耗品」として買っていただける新端末の開発をめざして、具体的な検討を進めています。

 最後に残された課題は、この開発を支援する資金援助を得ることです。それさえできれば、義務教育の現場への『聞き書きマップ』の実装が、一気に実現します。  私たちの2017年は、みちびき対応受信機の開発を軌道に乗せるべく、今まさに「ロケットスタート」を切ったところです。ぜひ皆様の応援をよろしくお願いいたします!